現代の生活様式の変化により、安価な製品が流通されているが、高くても質の良いものを長く使う、製造工程を学び価値を理解する事は、普段の生活を豊かにします。
食器を伝統工芸品にしたり、ビンテージの服を着たり、古民家で暮らしたり、衣食住を見直して、丁寧な暮らしをすると、心に余裕が生まれます。
普段の暮らしを見直すきっかけも与えてくれるのが旅の良いところです。
伝統工芸品とは、日常生活で使われるものを工程の多くが高度な技術の手作業で作り、長く受け継がれてきた歴史がある物です。
令和6年10月17日現在、経済産業大臣が指定する「伝統的工芸品」は全国に243品目あります。
大量生産のものとは異なり、職人が受け継がれた技を以て丁寧に作り上げる、想いのこもったもので、江戸切子、有田焼、西陣織など日本にはいろんな伝統工芸品があります。
そんな伝統工芸の職人が、北陸には沢山います。
富山・石川・福井の3県を含む北陸は、北陸新幹線で東京からアクセスしやすく、人が比較的少なく、ゆっくり旅をしたい人はきっと気に入る地域です。
「金沢」に来た時は、ぜひ足を運んで訪れたいところが沢山あるので、ローカルな北陸エリアと伝統工芸品の価値について紹介します。
富山に江戸時代から着実に伝わる匠の技
富山県南砺市井波で約250年前から続く伝統工芸品、井波彫刻は、日本一の彫刻の技術を誇るといわれています。
現在、約200名の彫刻師がおり、その匠の技が織りなす滑らかな表面と豪華なデザインが特徴です。
職人である前川さんに井波彫刻発祥の寺院、「瑞泉寺」をご案内していただき、色々な説明をしてくれ、質問にも丁寧に答えてくれました。
井波彫刻の始まりは、瑞泉寺再建の際に、派遣された京都の彫刻師が井波の宮大工に技術を伝えたことと言われています。
井波彫刻職人の手によって100種類の彫刻刀を使って荒彫りと仕上げをして作られた草花や仏教関連の彫刻は、繊細でありながら豪華で迫力があります。表面はとても滑らかなのにヤスリを使っていないことに驚きました。
職人になるには10年ほどかかり、初めは作業が難しい荒彫りは親方、仕上げが弟子という分担をし、修行の道を歩んでいくそうです。
実際に彫刻刀を使って木を彫ってみましたが、木の木目に沿って刃を入れるのがとても難しく、職人の技術がいかに高いかが分かりました。
前川さんもお父さんからその技を受け継ぎ、井波内外出身の複数人の弟子と共に制作活動通じて、着実に日本一の彫刻技術を次の世代に受け継いでいます。
彫刻のまちで、匠の技を職人から直接お話を聞く事でお寺の装飾に関する理解も深まり、旅の価値がとても高まりました。
富山の郷土文化を取り入れた「楽土庵」は、本物の伝統工芸を見られる贅沢な宿です。
周辺の豊かな自然環境の中、築200年の伝統的な古民家を改修した宿には、民藝・工芸・アートや、富山の豊富な食材を使った料理を楽しむことができます。
この宿に泊まると富山の和太鼓の伝統芸能の保存と継承を行う越中いさみ太鼓の練習の一部を見せていただけます。
民謡のこきりこ節など馴染みのある曲を一緒に太鼓で叩き練習に参加し、音楽で一体感が生まれました。
多様なスタイルで進化し続ける伝統工芸品
石川県の伝統工芸品である九谷焼は、370年前の江戸時代から一時期途絶えるものの続いている、鮮やかな柄が特徴の色絵陶磁器です。
飾り皿壺として祝いの席で使うための陶磁器であったため豪華な上絵が特徴的で、窯ごとに多様なデザインと絵付けスタイルがあり、その違いも楽しめます。
石川県小松市にある人間国宝吉田美統さんの窯元、錦山窯で4代目の幸央さんとるみこさんにご案内いただきました。
錦山窯の作品は、金箔で遠近感を出す手法が特徴で、その技術は釉裏金彩(ゆうりきんさい)と言われています。
陶磁器への上絵は、和紙に絵付けする模様を書き、模写のように椿の葉でつけ、線をつけます。
上絵の下絵がされた草花の型に金箔をのせる作業行程を間近で見させていただき、とても細かく正確な技術が必要だと理解しました。
絵を描いた後に焼く上絵窯も見せていただき、金彩を焼くのは難しく、金が沈まないように一度単位で温度調節が必要だそうです。
幸央さんは最新技術を使って様々な色彩のバランスや色の重ね具合を研究されているそうです。
お二人のご案内を通じて、九谷焼への熱い想いと伝統技術を受け継ぎながら釜のスタイルに発展させていくなど、今もなお進化を続けている錦山釜のこだわりにとても感銘を受けました。
制作風景を見学した後、素敵なギャラリーで作品を見せていただき、実際に食器として使ってお茶やスープをいただきました。
吉田さんは、ワークショップやお茶会を国を問わず訪問客に提供し、伝統工芸に触れられる機会を作っているそうです。
芸術品としてだけでなく実際に工芸品を使うことで、使い心地の良さや丁寧に使うことの大切さを知ることができました。
伝統工芸品の価値を知ると、高価な器を日常に取り入れ、大切に長く使うことがどれだけ重要か、理解できます。
昔も今も常に新しいデザインや技術を追い求め、国内外にその価値を伝える錦山釜で、職人が作品の魅力を語る贅沢な時間を過ごしました、
越前市に根付く伝統産業:和紙づくり
福井県越前市の伝統工芸品である越前和紙は、日本三大和紙に選ばれており、越前和紙は1500年の歴史があります。
「紙の神様」を祀っている岡太神社・大瀧神社がある「和紙のまち」越前市において和紙づくりは主要産業であり、日本の紙幣の原点である和紙の技術は日本随一と言えます。
江戸末期に創業した岩野平三郎製紙所で和紙職人からその製造工程を見せていただきました。
この製紙所は、日本古来の原料を使用し、伝統的な流し漉きで大判和紙を漉いている日本で唯一の大判手漉き和紙工場です。
素敵な職人あきちゃんが迎えられ、工場に入った瞬間、独特の木の皮や紙の材料の匂いがしました。
和紙の原料は三椏やがんびなどの木の皮で、白皮を煮て、塵をとり、煮た皮をたたきます。
煮て漂白した後の白皮はとても綺麗で、それは山の水が綺麗でその恩恵を受けているからだそうです。
出来た材料にとろろあおいの根からできた「ねり」を混ぜて紙の材料は完成。
いよいよ「流し漉きの手法」を使って紙を漉きます。材料を大きな漉き槽に入れて、2-4人がかりで前後左右に揺らしながら漉いていきます。
丁寧で綿密な紙漉き作業は、手漉き和紙の一番重要な行程と言えるでしょう。
最後にその紙の層を圧搾して、1枚ずつはがし、乾かして完成です。
1枚ずつ綺麗に剥がされていく様は見ていてとても気持ちよかったです。
各行程は主に手作業で行うため、とても手間がかかりますが、そのおかげで綺麗で丈夫な手漉き紙が出来上がります。
工場の職人さんは、女性が多く、細かい塵をとりや紙を漉く作業は女性が行い、
力仕事である皮をたたく作業や乾かす作業は男性が行っているそうです。
その和紙は、主に書道用紙や大きい和紙は日本画や水墨画として使われていますが、アート作品やノートやご朱印帳などもあります。
我々も和紙職人兼写真家の作品や日常で使える名刺入れなどを購入しました。
職人あきちゃんは、とても暖かく迎え入れてくれ、福井弁でフレンドリーにお話ししてくれました。
最後は一緒に写真をとって、我々がの姿が見えなくなるまで手を振ってくれました。
一つ一つの行程に職人が時間と手間をかけることで日本屈指の技術が詰まった和紙が作られます。
職人のこだわり抜いた和紙づくり技術を是非間近で見てください。
北陸には、江戸時代前後にこのエリアを統括した加賀藩や福井藩の繁栄を象徴する日本屈指の伝統工芸品が多く残っています。
今回紹介した井波彫刻や九谷焼、越前和紙なども大名へ献上する作品や日用品であったため、今でもその技術を受け継ぎ作っており、高価なものとして販売されています。
工芸品の工場へ行き職人から話を聞くことは、その物の価値を理解し対価を払い購入し大切に使うことを促すことができます。
Tricolageではこのような本物の文化を体感できる特別な旅をお届けすることができます。
是非、私たちと一緒に伝統工芸士との旅を通じて、今まで知らなかった本物の日本文化の価値に触れる時間を過ごしてみませんか?
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