2022年9月30日、Tricolage株式会社と一般社団法人日本能率協会の共同開催で、
「これからのホスピタリティとは〜「持続可能性」という新しい価値〜」というテーマでオンラインパネルディスカッションを開催いたしました。
宿泊業界全体の新しい価値―“持続可能性(サステナビリティ)”―の理解を促進するため、具体的かつ実践的なSDGsへの取り組みに焦点を当てた討論となりました。
なぜ宿泊業界にサステナビリティが必要なのか、その背景と取組、そして宿泊施設のSDGs導入に役立つ情報を、セミナーのレポートとしてお伝えします。
目次
1.パネリスト・登壇者紹介
2.観光業界のSDGs取り組み事例
2.1【雪国観光圏】が一団となった観光づくりの仕掛け
2.2.1【雪国観光圏】とは
2.1.2 ブランディングの特徴
2.1.3 海外顧客をターゲットにした取り組み
2.2 帝国ホテルのサステナビリティ推進活動
2.2.1 サステナビリティの基盤は「創業精神」と「企業理念」
2.2.2 サステナビリティ推進体制
2.2.3 環境活動
2.2.4 これからのホテルに求められること〜ラグジュアリーとサステナビリティの融合〜
3.前編のまとめ
1. パネリスト・登壇者紹介
■パネリスト 井口 智裕 氏(いぐちともひろ) 株式会社いせん 代表取締役 一般社団法人雪国観光圏 代表理事 株式会社龍言 代表取締役 | |
■パネリスト 平石 理奈 氏(ひらいしりな) 株式会社帝国ホテル 総務部 総務課 SDGs推進担当課長 | |
■モデレーター 北村 剛史 氏(きたむらたけし) 株式会社日本ホテルアプレイザル 代表取締役、専任不動産鑑定士 株式会社サクラクオリティマネジメント 代表取締役 一般社団法人観光品質認証協会 統括理事 | |
■司会 吉田 史子(よしだふみこ) Tricolage株式会社 取締役COO |
2.観光業界のSDGs取り組み事例
宿泊業界において「ウィズコロナ時代の解決策=”SDGs”あるいは“持続可能性”」
と言われる昨今。
まずは“持続可能性”という新しい価値について、どのようなアプローチがあるのか、
井口氏と平石氏に、各社の具体的な事例を紹介していただきました。
2.1【雪国観光圏】が一団となった観光づくりの仕掛け
まずは2008年に発足した【雪国観光圏】(…新潟、長野、群馬の3県7市町村が関わる広域連携)の様々な取り組み事例を見ていきましょう。
2.1.1【雪国観光圏】とは
そもそも、なぜ「雪国」なのか?
[雪国文化]=8000年前の縄文から続く、雪で育まれた知恵が詰まっている。
こうして、雪国文化を共有してきた市町村同士が連携することで、より効率的に地域の価値・特徴を世界に発信できる…と考えたのが、雪国観光圏の原点です。
宿泊施設の連携により、さらに大規模で勢いのあるマーケティング・運営が可能となっています。
2.1.2 ブランディングの特徴
ブランド形成の仕組みも、【雪国観光圏】の特性を活かし、1つの法人がDMO (観光地域づくり法人) ・ DMC (観光地域づくりから旅行商品提供まで行う旅行会社) の機能を有しています。
具体的には以下のように、マーケティング ➞ 商品造成・手配 ➞ 品質管理 までを連携して行い、顧客が安心安全に旅行できる仕組みです:
[雪国文化]を軸に観光客となるターゲットをリサーチ
調査結果に基づき、DMC機能をもつメンバーが商品造成・手配を担当
飲食店や宿泊施設はA級グルメやサクラクオリティ(後編参照)認証施設へ誘導
単に旅行商品の販売ではなく、[ブランディング・商品造成・連携宿泊施設の品質改善]にきちんと繋げることをワンストップで実施する…というのが雪国観光圏のブランディング。
井口氏の運営する古民家ホテルや旅館も“ブランド価値をいかに体感させるか?”を基盤にリノベーションを実施しました。
2.1.3 海外顧客をターゲットにした取り組み
■[TIMELESS YUKIGUNI]の発足
欧米の顧客、特にモダンラグジュアリー層をターゲットとするには雪国観光圏の施設で新たなアライアンスが必要と考え、コロナ禍の2020年に12件の旅館と発足しました。
■[ECO LODGES JAPAN]の設立
【エコロッジ】…環境に配慮した小規模かつ高付加価値の宿泊施設のこと自然環境へ配慮し、地域の文化・資源を上手く活用している温泉旅館の価値をより上手く伝える戦略として、エコロッジ・ジャパンが設立されました。
旅館の苦手分野―それは「環境に対する配慮を可視化して考える」こと。
食事の量や内容も見直す
ゴミの量を削減する努力
旅館で使用する化石燃料を削減していく
…...等の取り組みをお互い数値化して共有し、エリアとして明確な削減目標を掲げて取り組んでいるのも、雪国観光圏の取り組みの一つです。
2.2 帝国ホテルのサステナビリティ推進活動
では次に、日本を代表する「帝国ホテル」の取組を見ていきましょう。
2.2.1 サステナビリティの基盤は「創業精神」と「企業理念」
1890年の創立以来、国難や重要イベントに社会と共に立ち向かってきた帝国ホテル。 初代会長・渋沢栄一が唱えた信念「公共性の追求」、そして「ホテルの中に集う人々の命を預かる」を責務として自発的に動く従業員の姿勢が、現在のSDGs推進に繋がっています。
2.2.2 サステナビリティ推進体制
基盤となるのが、2020年発足の「サステナビリティ推進委員会(2008年発足の環境委員会からの切り替え)」で、そのハブ組織として「SDGsチーム」が作られました。
その下に、目標のSDGs11項目へ取組むチームを部門別に生成しています。
ここで活動サイクルの起点となるのが、「従業員満足度向上」。
従業員がやる気を持って働ければ、 ↓
生き生きとサービスが提供され、美味しい料理が作られる ↓
それが顧客の満足を生み、 ↓
リピーターを増やし、 ↓
売上・利益に貢献し、 ↓
そしてそれが何らかの形で従業員へ還元される
…この循環モデルを上手く回すことに注力しています。
2.2.3 環境活動
■食品ロス
2001年環境委員会発足により「混ぜればゴミ、分ければ資源」を合言葉に3R活動を実施。
2002年に生ゴミリサイクル乾燥機を社内に設置し、 サーキュラーエコノミー(↓)を実現し、現在は70%のリサイクル率達成。 1日2トン排出されるゴミを乾燥・堆肥化➞農園に提供 ➞ 農園で栽培される野菜を館内レストランで利用
コロナ禍2020年〜オーダーバイキング形式を導入し、前年比8割のゴミ削減に貢献。(ちなみに、帝国ホテルはバイキングの発祥地です)
従業員食堂自営化:館内の様々なレストランや宴会場で発生する端材を集め、従業員食堂の調理で上手く活用。10ヶ月で7.5トンの食品ロス削減に貢献。
■脱プラスチック
帝国ホテルでは、館内のプラスチック素材を竹製や木製に切り替え、既存品に比べ92%のプラスチック量削減に繋げました。 ちなみにコストは3割増ですが、「ホテルの姿勢が現れる客室アメニティに未来を託す」という意気込みで取り組んでいます。
■省エネルギー
CO2排出量実質ゼロを目指し、上高地帝国ホテルで2022年からカーボンフリー運営を開始。
全厨房(大阪・東京・上高地の帝国ホテル)においてカーボンフリーガスを導入し、料理は全てCO2ゼロで調理される体制を整備。
ホテルロビーの象徴・シャンデリアも、再生可能エネルギーを使用。
全ては、「脱炭素ロードマップ」に計画された2050年カーボンニュートラルを達成すべく、実行しています。
■「食」の多様性と持続可能性
様々な価値観や、宗教的背景や倫理観を持つお客様が安心して社交・食事を楽しめるよう「食の多様性」を推進し、動物性原材料不使用のヴィーガンメニューを拡充。 また、食品・食材の開発も行い、様々な形でサステナビリティに取り組んでいます。
2.2.4 これからのホテルに求められること〜ラグジュアリーとサステナビリティの融合〜
平石氏が理想として掲げる、これからのホテル運営のポイントは:
ホテルでの滞在自体が、環境や社会課題の解決に繋がる
情報開示し、ステークホルダーとともに協働し、未来にやさしいホテルを共創
“「ラグジュアリー」x「サステナビリティ」は相反するもの”というジレンマに対して、
平石氏の解決策は「お客様との共同作業」。
「お客様に耳を傾け、お客様と共に。どういったことが、お客様にご理解・ご協力いただけて、サステナビリティを推進できるのか」
…...勿論、各ホテルによって課題・解決策は異なりますが、帝国ホテルは上記の姿勢で課題解決に取り組んでいます。
3. 前編のまとめ
前編では、現在実施されている各旅館・ホテルのSDGs推進事例をご紹介しました。
以下4つが、前編で学んだ重要なポイントです:
宿泊施設の連携により、単体よりも勢いのあるマーケティング・運営が可能となり、 また、より効率的にその地域の文化・価値・特徴を発信できる
これから世界の新しい顧客層をターゲットとするには、 宿泊業界の従来のやり方を再検討し、 自然と行っていたことを「環境に対する配慮を可視化して考える」ことが必要
SDGs推進の秘訣は、いかに従業員がSDGsを身近に考え、 理解を示すことができる環境と仕組みを確立できるかである
サステナビリティ=ホテルのサービス抑制、ではなく、 むしろサステナビリティの活動により、さらに良い宿泊体験の提供が可能となる。 ラグジュアリーとサステナビリティは融合し得る。
セミナーの後編はパネルディスカッションです。
SDGs推進で明らかとなったメリット・課題・解決策など、ぜひ宿泊業界の運営・運用のヒントとしてご覧ください。
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